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バカ、と少年の頭をコツンと叩いた。 「けど、ほら、いつだっけキミと最後に行ったのは? キミの……そう、水玉の水着がなくなったとき」 みるみるうちに少女が真っ赤になる。 「こ、こらっ! 人がせっかく忘れかけてたことをわざわざ思い出させるな!」 握った拳が小刻みに震えている。 少年はおどけた仕草で謝る。からかっているのは誰の目から見ても明らかだ。 「ははっ。ごめんごめん。懐かしくてつい」 「つい、でいちいち恥ずかしい思い出を暴露しないで。まったくもう」 本人はできる限り怒っているが、頬を膨らましたその顔が思いのほかおかしく、少年は耐えきれずにまた笑う。ますます怒る少女。 「もう知んない!」 「ごめんって。怒らないでよ」 目の端に涙を浮かべながら言われてもまるで説得力がない。少女はぷいとそっぽを向く。 少年はひとしきり大笑いした後、小さく息を吐いた。少女が視線を戻す。少年は微笑む。 「ちょっと疲れた」 「もう、寝なさい」 「うん」 少年は起こした上体を戻し、瞼を閉じた。しかし、少ししてから声をかけられた。 「……ねぇ」 瞼を開け、見る。 「海、また行けたらいいね」 「──うん」 蝉が力強く鳴いていた。
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