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……見てる。
めっちゃ見てる。
こっち見てる。
チョー見てるよ。
それに気づき、少女は表情を強ばらせた。
麗らかな日光が降り注ぐ登校中、距離にしておよそ三メートル。ガードレールに腰をかけ、左手にワンカップ、足下にデッカい紙袋を置いたおっさんが、少女をじーっと見ていた。
よれよれのスーツで身を包み、そろそろ手入れをしたらどうかと言いたくなるほどの無精ひげ。
何というか、人生に疲れたとかギャンブル三昧とか妻子に逃げられたとか、そういう言葉が妙にしっくりくる。そんなおっさんが登校中の女子大生をガン見しているのだから、下手すれば職務質問ものである。
できれば近寄りたくないが、あいにく登校するにはこの一本道しかないわけで。
少女はなるべくそっちを見ないようにして、早足で通り過ぎようとし──
「おい嬢ちゃん」
しまった、と思った時には既に遅く、ビクッと肩をすくめ、思わず足を止めてしまった。
無視するわけにもいかず、目だけを横に向けて、
「嬢ちゃん、あんた恋してるな?」
というおっさんの声を最後に、プツンと少女の意識は途絶えた。
気づけば辺り一面真っ暗だった。
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