46人が本棚に入れています
本棚に追加
一拍遅れてワンカップが中身をぶちまけた。
闇の向こうからうんうんと響く呻き声。舌打ちをして少女は堂々と闇の中へ突っ込む。そして瀕死のおっさんの襟元を締め上げながら連れ出し、ガックンガックン揺らす。
「痛い! 痛いよ! なぜいきなり殴った!?」
「黙れ誘拐犯! ここどこっ!? どこなのよここ!? さっさと吐きなさい! ほら、言え。早く言え。すぐ言え」
「あ、止めて。お願い止めて。ごめんなさい。アルコールがうぇ…本当に吐いちまうって。嘔吐的な意味で」
虫けらでも見るかのような目で少女は見下ろし──
「で、ここどこよ?」
「おっと嬢ちゃん、年上にものを尋ねる時はもっと丁寧に……痛たたたたたっ! 言います言います。ちゃんと言います」
涙目で懇願するおっさんの指の上から靴底をどかす。
埃を落とすと胸ポケットからタバコを取り出し、火を付ける。
「ここは俺が作った、紙一重の世界だ。急拵えの簡易異世界とでも思ってくれ」
少女の目が語っている。おっさん、朝っぱらからアルコールとるからだよ、と。
「いや、本当のことだ。まぁたしかに昨日の酔いがしんどかったから、迎え酒をしたのは本当だが」
最初のコメントを投稿しよう!