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一拍遅れてワンカップが中身をぶちまけた。 闇の向こうからうんうんと響く呻き声。舌打ちをして少女は堂々と闇の中へ突っ込む。そして瀕死のおっさんの襟元を締め上げながら連れ出し、ガックンガックン揺らす。 「痛い! 痛いよ! なぜいきなり殴った!?」 「黙れ誘拐犯! ここどこっ!? どこなのよここ!? さっさと吐きなさい! ほら、言え。早く言え。すぐ言え」 「あ、止めて。お願い止めて。ごめんなさい。アルコールがうぇ…本当に吐いちまうって。嘔吐的な意味で」 虫けらでも見るかのような目で少女は見下ろし── 「で、ここどこよ?」 「おっと嬢ちゃん、年上にものを尋ねる時はもっと丁寧に……痛たたたたたっ! 言います言います。ちゃんと言います」 涙目で懇願するおっさんの指の上から靴底をどかす。 埃を落とすと胸ポケットからタバコを取り出し、火を付ける。 「ここは俺が作った、紙一重の世界だ。急拵えの簡易異世界とでも思ってくれ」 少女の目が語っている。おっさん、朝っぱらからアルコールとるからだよ、と。 「いや、本当のことだ。まぁたしかに昨日の酔いがしんどかったから、迎え酒をしたのは本当だが」
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