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呑気な雰囲気を一気に壊したのは、すぐ横の茂みから音が聞こえたからだった。
身構えた二人の緊張が高まっていき、茂みの中に潜む何かに全神経を集中させて万全な態勢を保つ。
音が大きくなり、茂み全体が揺れ、何かが姿を現す瞬間に最高潮の緊張と恐怖が混じり合って体を支配していた。
それが小さな子犬のような生物だとわかった瞬間、二人の気の抜けようは半端ではなかった。
「……かぁわいぃ」
「おい」
呆れたことに、尻尾のようなものを左右に振る生物と豆粒のような赤い目に、さゆみは心を奪われていた。
全身が黒く瞳の赤い生物は変異種と呼ばれている。
変異種は空気中に存在する魔力を取り込んだ生物が、体内もしくは体外になんらかの変異が発生した生物のことを示している。
人間には負担のない量でも、他の生物にとっては毒ともなる魔力。全てではないが、変異種へとなってしまう生物もいるのが事実だ。
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