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二人の仕事はその変異種を確認すること。危害を加える場合なら、速やかに排除することも言われている。
この子犬のような変異種は野良犬かはわからないが、魔力を吸収し過ぎて変異してしまったのだろう。
「小さぁい……」
「仕事を覚えてるだろうな。持って帰るなよ」
「わかってるって」
とは言うものの、さゆみは変異種の前で膝を曲げ、儚げな目を見つめ返した。
危害を与えるような姿には見えないが変異種は変異種。姿形に惑わされて負傷したり、最悪の場合なら命を落とす者もいる。油断はできず、慎重にならなければならない。
なのにさゆみは臆することなく、右手を差し出したのだ。
馬鹿としか言い様がなかった。
「ほらほらー。大丈夫だよ」
「調子乗って噛み付かれるなよ」
「平気よ。私だって馬鹿じゃ――」
「ない」と言いかけた瞬間、子犬は今までの愛らしい姿とは異なり、鰐のように大きく開かれた口をさゆみに向けた。
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