世界は割れ響く耳鳴りのようだ

11/27
前へ
/1036ページ
次へ
 二人の仕事はその変異種を確認すること。危害を加える場合なら、速やかに排除することも言われている。  この子犬のような変異種は野良犬かはわからないが、魔力を吸収し過ぎて変異してしまったのだろう。 「小さぁい……」 「仕事を覚えてるだろうな。持って帰るなよ」 「わかってるって」  とは言うものの、さゆみは変異種の前で膝を曲げ、儚げな目を見つめ返した。  危害を与えるような姿には見えないが変異種は変異種。姿形に惑わされて負傷したり、最悪の場合なら命を落とす者もいる。油断はできず、慎重にならなければならない。  なのにさゆみは臆することなく、右手を差し出したのだ。  馬鹿としか言い様がなかった。 「ほらほらー。大丈夫だよ」 「調子乗って噛み付かれるなよ」 「平気よ。私だって馬鹿じゃ――」 「ない」と言いかけた瞬間、子犬は今までの愛らしい姿とは異なり、鰐のように大きく開かれた口をさゆみに向けた。
/1036ページ

最初のコメントを投稿しよう!

272人が本棚に入れています
本棚に追加