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噛み砕かれてもおかしくなかった状況で、さゆみの体はなんともなかった。
海斗がさゆみを庇って盾となり、己の右腕を噛み付かせていたからだ。
「やっぱり……なっ!」
噛まれた右手を力任せに振り回して変異種を投げ飛ばす。
牙が抜けた瞬間、傷口から溢れ出た血が海斗の頬に付着した。
変異種は木の側面を足場として利用し、地面へと着地。
その姿は愛くるしい子犬ではなく、獰猛で威圧感を漂わせ、身長が二メートルもありそうな巨大な漆黒の狼へと変貌していた。
牙を剥き、唸り、赤い瞳を向けて二人を威嚇する狼の変異種は後ろ足に力を入れ、今飛び出してもおかしくない戦闘態勢になっている。
「海斗、大丈夫!?」
「平気だ。慣れてる」
あんなのによく噛み付かれて腕の形が残っていることに安堵していた海斗だが、反対にさゆみは動揺してしまっていた。
まぁ、自分のせいで海斗が負傷してしまったのだから当然といえば当然だろう。
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