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しかしいつまでもそうはしてられない。目の前の狼はいつ襲い掛かってきてもおかしくないのだ。
「来るぞ」
「わ、わかってるわよ」
少し慌てながらも身構えるさゆみも準備はできているらしいが、構えは固く、緊張した面持ちで対峙している。
ボクシングのような軽い構えで拳を作っているが、よく見れば震えているのがわかる。あまり戦闘に慣れていないようだ。
対して海斗はというと、傷ついた右腕を気遣う様子はない。力なく地面へと垂らし、構えもしていない。余裕すら見せている。
これほどまでに対照的な二人へ敵意を向ける狼の変異種は、まだ唸り続け口端から涎を垂らしていた。
「お前、どんな魔術を使える?」
「結界魔術。ある程度は応用できる。それに『お前』じゃなく『さゆみ』よ」
「失礼。だったらあれが突っ込んできたら結界で受け止めてすぐに消せ」
「別にいいけどその後はどうする気よ?」
「俺が叩く」
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