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咲き誇った桜がそろそろ散っていく頃となる四月中旬。
世間では新生活の始まりとして、新入生や新社会人が歓迎される季節とも認識されている。
この街道も舞い散った桜の花びらで敷かれ、見事に桜色へと染め上がっていた。
一時でも幻想の世界へと導いてくれる街道を、一台の自転車が走り抜けていく。
乗っているのは学生服を身に纏っている少年。眠そうでやる気がなさそうなその目付きは、失礼だが良い印象を与えるかと言われれば否だ。
特徴的なのは右手に黒い革手袋をはめている。左手にはなにもしていない。
名前は楯山海斗(たてやまかいと)。この街に住む高校入りたての新入生で、世界でも数えるほどしかいない稀で、哀れで、救いようのないことをしでかした人間である。
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