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しばらく見つめていた少女は思い出したように声をあげ、低く唸りながら必死に記憶の中を弄(まさぐ)る。
「んー…………あっ。アンタ楯山海斗でしょ、B組の」
大正解だ。通っている高校で海斗はB組である。
「そんなどうでもいいことを何故こんなちっこいのが知っている?」と不思議に思い、頭を働かせてみるが結局答えが見つかることはなかった。
「私も同じクラスよ。名前覚えてない?」
「知らない」
「即答されると傷つくわね……まぁいいわ。美々原さゆみ。よろしくね海斗」
笑顔で自然と差し出された右手は交流の証として握手を求められていると即座にわかったが、海斗は数秒眺めただけで応じることはなかった。
当たり前だが握手は手を握らなければならない。さゆみは右手を出している。
“右手”で握り返さなければならないなんて、絶対に嫌で、見せたくも握らせたくもなかった。
握手する動作の代わり、嫌悪する右手でズボンのポケットから携帯電話を取り出し、左手に持ち変えるとさゆみに背を向けて距離を広げ電話をかけた。
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