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2章 カミカクシ
1.
その話題が会話にのぼったのは、ちょうど程よい空腹を抱えたランチタイムだった。
「ねぇ、倉木…もちろん知ってると思うけどサ、犠牲になった人って、この地区から出たじゃない?」
ナポリタンを頬張りながら、熱の入った様子で話すのは同期の友人、織原ゆかりである。
その手の話が好物の彼女は、昼食そっちのけで鼻息が荒かった。
まぁ、別に恐怖話が苦手というわけでもないし、彼女の話は他にはない面白さがあるから、別にいいのだが。
「ああ、連続殺人事件の話ね。失踪だとか、正体不明の殺人鬼だとか…TVは騒いでるみたいだけど…笑い事じゃないっつーの」
と、なんとも無難な返答を、倉木こと・私は返す。
発生の時期も間隔も不定期、小さくも残忍な事件が新聞の片隅に載ったのは今から3年前。
男女拘わらず、不特定多数の人間が下校途中もしくは帰宅途中に襲われ――――まるで野犬にでも喰い殺されたかのような惨殺体で発見されるという内容だ。
どれだけの人間が既に餌食になったことか…。
真相究明は未だなされてはいないが、いまやテレビを筆頭に、雑誌やなにやらを占領して巷を震撼の渦に叩き込んでいる事件である。
「そうだけど、むしろそれが不気味で面白いっていうかサ」
「不謹慎でしょ…」
そのとおりだ。
お前は、我が身が危険に晒されても食い付いていきそうで頭が痛いよ。
「だーって、毎日退屈でさあ。面白いことなんて、ワイドショーでやってる例の事件の話くらいだし?」
くるくるとフォークを振りながら力説するゆかりに対し、私は肩を竦めてみせるだけに留めて再び傍観に戻る。
こうなった彼女は、まったく以て手のつけようがない。
これ以上なにを言ってもムダなのを知っているからこそ、私は同僚である彼女を止めなかった。
まあ、数年来の付き合いだ。同僚の誼で然り気無く遠ざけてやろう。
「やれやれ…」
溜息を吐いて俯かせた陰で、私は唇を笑みの形に歪ませた。
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