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(案外、バレないものだな。ああ面白い)
窓の外を向いて座る茶髪の青年は、内心で嘲笑いながら温くなってしまった缶コーヒーを呷る。
現在、巷を恐怖の渦に陥らせている張本人である【現代怪異・カミカクシ】こそが、彼その人であった。
彼は長らく、ここに居た。
誰もが彼を同じ人間として見做して接し、彼も疑いを持たれることなく日常を演じ上げていた。
まあ、疑いを持つ者は『観察者』のみであったが彼は気付いていない。
現代怪異・カミカクシは品定めするかのような柔和な笑顔を絶やさない。
そうすれば、蜜に誘き寄せられる蝶のごとく、上手いように勘違いをした女性が集まってくるからだ。
人間の皮を着て同じ日常を過ごしていれば、誰も自分が異物であるとは気づかない。
どうせこの身体も、一番初めに乗っ取った人間の身体だ。
使い潰しても何ら支障はきたさなかった。
ああ面白い、人間とはなんてバカな生き物だろう。
同じものを見て、感じ、同じように《人間そのもの》を演じて近づけば、奴らは簡単に騙されてくれる。
信じ込ませて慣れ合い、疑心さえ抱かせなければ易いもの。
勝手に誤解して、簡単に信用してくれるというのだからこちらとしても余計な手間が省けて万々歳だ。
この肉体の持ち主の友人もそうだが、利用するにはもってこいのカモを逃がす手はない。
さあ、今日も愛嬌を振り撒いて取り巻きを増やさなければ。
現代怪異・カミカクシは、きゃわきゃわと華やいだ様子で話しかけてくる同僚女性達に応える裏側で人間という生物を冒涜した。
(やれやれ馬鹿者共よ、もっと騒いでおくれ。そして早く怪異(オレ)を見つけて、魂から恐怖すればいいよ。
……こういう輩共が居るからこそ、オレは恐怖を糧として存在してゆける)
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