序章

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「――いいかいアルビス。よく聞いておくれ。この先何があっても、決して魔力だけは使っちゃいけないよ。絶対だ。約束してくれるかい?」  アルビスが物心ついた頃から、それは祖母の口癖だった。  いつだって穏やかでめったに声を荒げることのなかった祖母が、その言葉を口にする時だけは、語気を強める。皺の目立つ枯れ木のように細い手で痛いくらいに両肩を掴まれ、アルビスは戸惑った。たるんだ皮膚に覆われた祖母の眼には、強い光が宿っている。  どうしてそんな顔をするのだろう?  その眼差しに気圧されながらも子供ながらの好奇心が勝り、アルビスはいつも、こう聞かずにはいられない。 「マリョクって、なぁに?」  だが、尋ねてしまってすぐに後悔した。祖母の瞳が悲しげに揺らいだからだ。  肩に乗せられていた手が背中にまわされ、幼いアルビスの体は祖母の胸へと引き寄せられていた。 「いらないものだよ。この世界で生きていくのに、必要のないもの……いや、あってはいけないものなんだよ」  耳元で響く祖母の声は、普段よりも一層しわがれていて、その上やや震えてさえいて聞き取りづらい。  アルビスは必死に耳をそばだてた。
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