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―町がおかしい。
東雲周(しののめいたる)はここ三日間ほどそう感じている。何もない、平凡な町だったはずなのに。おかしい。外見は大して変ってはいないような気がする。だけど中の雰囲気が変わった。どこか湿ったような、暗い雰囲気になり果てた。
「いーたーるーっ!帰ろうぜ」
「あ、うん…。そうだね」
学校が終わると同時に話しかけてくるクラスメイト。雰囲気が変わったことに気が付いていないのか、とも思うが逆に『普段の生活を送れている』という安心感をもたらしていた。
「東雲、悪いがこれを桐生に届けてくれないか?」
「千爽にですか?」
担任に渡されたのはやや分厚いプリントの束。
「幼馴染なんだろ?本当は先生が届けたいんだが…」
「いいですよ。分かりました」
「すまんな。助かるよ」
周の幼馴染である桐生千爽(きりゅうちさ)はここ最近学校に来ていない。不登校ではなく、忌引きで。
確かに千爽は引きこもりの気はあった。だが、それはあくまでも休日の話であって平日の話ではない。千爽のことを一言で言えば名前とは逆に静かで運動などよりも本や音楽が好きな心の優しい少女。
周はそんな幼馴染を常に気にかけてきたし、何があろうと護るべき存在。そんな風に思ってきた。そして、今でもそう思っている。
そんな千爽が通夜も葬式ももう終わったはずなのに未だ学校に来ないのだ。
「いえ、僕も千爽のことが気になっていましたし」
「周はいいよなー。桐生のような美人が幼馴染でさー」
「原、それは僻み?」
「僻んで何が悪い?」
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