会話は小さな声で

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広い屋敷を夕暮れがほの明るく照らしている。このしんみりとした、というか中途半端な雰囲気は好きじゃない。朝、昼、晩とはっきりした時間が好きだ。夕方は、昼か夜かどっちつかずで嫌いだ。 そんな他愛ないことを考えながら、相変わらず愛想のないネームプレートがかけられた部屋の前に俺はただ立っていた。さっきから3分くらいこうしているが、タイミングが掴めない上に、部屋からは物音ひとつしない。…流石にもう起きていると思うのだが。静かすぎる。 「あら、御主人様」 「花梨」 「お嬢様に何か御用でも?」 洗濯物を抱えた花梨がにこにこと近付いてくる。 「ああ、ちょっとな」 「そうですか」 「……」 「……」 「………」 「………」 「ノックなさらないのですか?」 「あんたいつまで此処にいるんだ」 会話は終わった筈。だが、花梨はにこにこしたままこの場から離れようとしない。洗濯物を片付けに行く途中じゃなかったのか。 「……タイミングが分からないんだよ」 「タイミング?」 「………俺にもよくわかんねーけど」 「……」 そう。分からないのだ。物音ひとつ立てない部屋にノックするのが何故か躊躇われる。高鳴る胸はきっと気のせいだ。 「そうですか…」 「?どうした」 「いえ……」
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