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「織原さん、七瀬さん。鳴神様はもう帰室されているわ」
「はい!」
慌ただしく千秋ちゃんの部屋へと向かう。
「お帰りなさい、千秋ちゃん」
「ただいま」
ふわり、淡く微笑む千秋。
「悪くはなってなかったって誠センセが仰って下さったの」
嬉しいわ、と言う千秋ちゃんを前にいたたまれなくなる。
―――悪くはなってなかった。
それはつまり、良くもなっていないということに他ならない。
長くこの病気と付き合ってきた彼女はその言葉の意味をよく知るはずだ。
悪化していないだけでも救いなのだと言うことが痛いほど伝わってくる。
「そう……それを聞いて安心したわ」
七瀬はやんわりと受け止めた。
「千鶴君もう少ししたらいらしてくれるみたいだから少しゆっくりしていてね?」
「え……来てくれるの?」
「院長先生が御連絡差し上げたらその足で向かって下さったみたいよ?」
「嬉しい……」
本当に嬉しそうに微笑みを深くする千秋ちゃんの傍らで七瀬を凝視してしまう。
神威家との関わりは彼女には伏せる手筈なのだろうか。
確認を取るまでは迂闊なことは話せないと心に誓う。
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