目撃

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曰く付きであることから意識を反らし、自分を鼓舞するためにあえて大きな独り言を言う。 ぱんぱんっ。 両手で頬を挟むようにして叩く。 「よしっ」 院長先生に御挨拶して、入寮の手続きをして、配属先を教えてもらって…… 兎に角今日中に済ませたいことは山ほどある。 病院の大きさにたじろいている暇はない。 敷地内に足を踏み入れる。 白亜の建物が春の日差しを浴びて煌めく。 眩しい。 広大な敷地には芝生が一面に広がり、木々や花々がところ狭しと植えられており、四季を感じることができるのはもちろん入院患者が散歩をしたり、日光浴が出来たりと高級ホテルを思わせる非現実な光景が広がる。 「バカンス?」 敷地を歩く人々がパジャマでなければまず間違いなく錯覚する。 犬や猫もセラピー目的で飼育されており長閑にひなたぼっこに 興じていた。 ちょっとした楽園だ。 白衣の連中がいなければ。 きらり。 何かが反射した。 何気なくその方向を見上げる。 屋上。 人が立っていた。 まるで水溜まりをひょいと飛び越えるかのような身軽さで。 落ちた。
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