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「…………」
初出勤を待たずして、早くも世を儚んでしまった人を目撃してしまった衝撃に彰は固まる。
一瞬の出来事だった。
だが彰の目にはコマ送りとして映っていた。
白い固まりが落ちていく。
患者だろうか?
それとも医療者?
見る間に地面に近付く身体。
地面に叩き付けられた身体が鈍い音を立ててひしゃげ、揉んどり打ち、動かなくなり、拡がる血溜まり……
しかし幸いそれは彰の想像にしか過ぎなかったようだった。
「…………嘘」
有り得ない。
身投げしたその人は軽やかに着地すると何事もなかったかのようにすたすたと歩き始めた。
しかも。首と肩の間に携帯を挟んでいたようで……
「……だから、アルミホイルに包んだままでチンするなってあれほど言ったろう?」
えらく所帯染みた話をしていた。
「何度言ったらわかるんだよ?あ?そのままフライパンに突っ込んで蓋して火にかけて五分待ってりゃ出来たんだよ……書き置きした意味がないな。もういい。お前はもう俺が戻るまで台所に入るな」
そのまま彰の傍らをこれまたすずしい顔のまま通り過ぎていった。
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