プロローグ

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 この血は全部、自分のモノ。 この温かさは、自分の内蔵の熱。 それが、この氷漬けされた部屋でここだけ温かい理由だった。  ―――しかし、それも一時。 彼女の臓物も、だんだんと熱が失われていく。 冷たくなる身体。 死が、訪れる。 それはだれが見ても明白なものだった。  ―――信じられるわけがない。 あまりにも唐突で なにより呆気なさすぎることに。  確かに、彼女の人生はそれほど幸せ、というものではなかったが。 それでも、この結末は――望んではいなかった。  だから…… だから、彼女は、全ての力を振り絞り、頭と首を動かし、前を見る。 ディスプレイが点滅している彼女の携帯電話。 倒れゆく仲間。 その先に――― あの男は、いた。  -200度の氷の世界に、男は満身創痍ながらも、立っていた。
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