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その男を彼女は目に焼きつける。
自分の命を
自分の未来を
自分の夢を
自分のこれから、そしてこれまでの全てを奪ったあの男を……許さない、と。
そして動かない腕を懸命に動かし、目の前にある血塗れの携帯電話に彼女は手を伸ばす。
―――それに気付いたのか、どうか。
「悪いな……こっちも仕事なんだ」
とたった一言だけを残し、男は暗闇に姿を消した。
彼女の仲間からすれば、助かったと言っていい。仲間たちは、彼女に比べればまだ軽傷である。
「―――、~~――」
「~~!―――、―」
仲間が彼女に声を伝える。先ほどとは違って、頭にではなく直接……生身の声で。
―――しかし、彼女の耳には届かない。
そして、男がいなくなったことにも気付いていない。
いまや死にゆく彼女の心には、あるシンプルな感情しか存在していなかった。
「……恨み、ますわ」
『怨恨』『憎悪』。
彼女を殺した男に対する、彼女のとれる最も自然でありシンプルな感情だった。
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