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回りは、閑散としていました。
あれだけ鳴いてた蝉も、一匹もいませんでした。
二人はお父さんを探して小さな首を右へ左へ振りました。
だけど、壁に人の形の黒いシミができてるだけで、回りには誰一人いませんでした。
突然そばの木から、ゴオっと炎が上がりました。
火の粉が、二人のすぐそばまで降ってきます。
ゆいちゃんは、ぱぱ、ぱぱ、と火の粉も構わずお父さんを探しました。
「パパお家帰ったんだよ」
たっちゃんは、ゆいちゃんに言い聞かせて、その手を引いて木から、火の粉から離れました。
ゆいちゃんは、まだ、ぱぱ、ぱぱと言っています。
たっちゃんは、お父さんが、お母さんがそうするように、ゆいちゃんの手を引いて公園を出ました。
いつもなら、車が、人がいる公園の前の道にも、誰一人としていませんでした。
その変わり、木が家が、草が燃えて、大きな炎がゆらゆらと揺れていました。
二人は、暑くって、暑くって、目が肌がひりひりしました。
たっちゃんが、それでもお家に帰ろうと、ゆいちゃんの手を引っ張りましたが、ゆいちゃんはもう苦しくって座り込んでしまって、少しも動こうとしませんでした。
「ゆいちゃん」
たっちゃんは、ゆいちゃんを叱咤しました。
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