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あるまちかど
白夜で街は夕方でも明るい。
商店から出て、交通の多い大通りから外れた小さな路地の手前で父はいささか困ってつっ立っていた。
何とか暇を見つけて、城から出てきたのだが、妻に何か贈り物をと想っていたのに、なかなか良い品物が見つからなかったからだ。
幼い息子のユリアンは、そんな父を見上げる。
「お父さま。おなかがすきました。」
「ああ、そろそろご飯にしような?」
ユリウス23世ハインリヒは幼い養子を抱き上げると、食堂を見つけて店内に入った。
「いいにおいがします。」
父親は手足を動かすユリアンをそっと床におろす。
「何でも好きなものを頼みなさい。」
店員がユリアンに飴を、ユリウス23世にメニューを渡す。
「お子様ランチを食べてみたいです。」
ユリアンが目を輝かせて言うので、ユリウス23世ハインリヒも即答で、
「それではお子様ランチを頼む」
と言った。
「かしこまりました」
ウェイターが厨房に向かう。
「お子様ランチを頼んだのですね。」
「そうだよ。」
養父がにっこりと微笑む。
「お母さまもご一緒にいらっしゃったら良いのに…」
「今度は一緒に来ような。」
城で留守を守っている妻の無事を願った。
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