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信じられなくて、あの人を見ていると、気付いたあの人と目が合った。
するとあの人はペコリと軽く会釈をすると、申し訳ないようなそんな笑顔をした。
俺は一歩ずつあの人に近付いた。
そんなに日にちは経っていないはずなのに、とても懐かしく思えた。
目の前に行くと、あの人が、これ、と差し出したものは、俺の社員証で、やっぱりあの店に忘れていたんだ。
「田宮さんっていうんですね……。
社員証、店に来るかと思って預かってたんですが、来られないから……。
必要な物かと思い、迷惑かとも思ったんですが、届けに来ました」
「マスターも、川島さんって言うから誰かと思いました」
俺が社員証に手を伸ばすと、川島さんがスッと社員証を引っ込めた。
…………えっ?
手元から顔を上げると川島さんはニコッと笑った。
「今日、店に来て下さい。
何時になっても構いません。
コレはその時にお返しします」
そう言うと、俺の返事を聞かずに川島さんは去って行った。
……さて、どうしよう。
社員証は新しい物があるから、返してもらわなくても平気だ。
それに行くなんて言っていない。
でも……。
今日、川島さんに逢ってしまったら、もっと逢いたくなってしまった。
やっぱりまだ、俺は川島さんが好きなんだ……。
そう思い知らされた瞬間だった。
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