田宮 亮(タミヤ リョウ)

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――カランコロン ドアを開ければ、聞き慣れたベルが鳴り、そしてあの人が『いらっしゃいませ』と俺に言う。 閉店間際の店内には、客は俺しか居ない。 いつも決まって頼むのはアイス珈琲。 だからか、最近では注文しなくても、アイス珈琲が出てくる程に、この小さな喫茶店の常連客になった。 初めてこの喫茶店に入ったのは3ヶ月ほど前……。 たまたま、いつもより少し早く終わった日に、たまたまいつもと違う道から帰りたい気分だった。 そして、たまたま目を引いたこの喫茶店に、何故か足が向き入った。 偶然が偶然を呼び、仕事と家の往復だけの詰まらない日常に色がついた。 今思えば一目惚れだったのかもしれない。 ドアを開けあの人を見た時に……。 名前も年も何も知らない。 知ってるのはこの喫茶店のマスターという事だけ。 もしかしたら、結婚して幸せな家庭を築いているかもしれない。 それでも何も知らないマスターに、逢う度に惹かれ、好きになっていく。 ただこうして、マスターの煎れてくれたアイス珈琲を飲めるだけで、俺は十分だ。 そう思っていたはずなのに……。 .
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