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そして、この店に来るのも最後となった。
それでも、いつもの時間にいつもの席で、何も言わなくても出てくるアイス珈琲。
なんら変わらない最後の日。
「どうかしました?」
マスターが心配そうに声を掛けてきた。
いつもと同じようにしていたつもりだったのに……。
俺は少し自嘲気味に笑った。
「昨日、好きな人に想いを伝えたんですが……。
気付いてもらえてないみたいで……。
今日はもう、帰ります。
珈琲……ご馳走様でした。」
殆んど口の付けていないアイス珈琲のお金をカウンターに置き、ドアへと向かう。
背に、マスターの最後の有り難うございます、を受け、何も言わずに店を出た。
やっぱり気付いてもらえなかったか……。
なら、今日も書き残してきた俺の想いは、きっとあの人に気付かれる事もなく捨てられるだろう。
これで、あの人が言った様に、前に進めるだろうか……。
いや、進まなきゃいけない。
でも、もう少しだけ……。
もう少しだけ、貴方の事を好きでいて、愛していていいですか?
空を見上げ、返事のあるはずないあの人へ聞いた。
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