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翌朝、出勤した俺は社員証を出そうとしたが、鞄をいくら探しても見当たらず、再発行手続きをした。
きっとあの店だ。
きっと財布を出した時に、一緒に出して落としたんだ。
でも取りに行く気はなかった。
昨日で最後と決めた。
それが俺の気持ちに対してのケジメ。
あの日から数日後、頼んだ社員証も届き何ら変わらない、色のなくなった毎日を過ごしていた。
あの店が、あの人が、どれだけ俺の心の渇きを満たしてくれていたか、今更ながらに実感した。
「田宮さん、下に川島さんと仰る方が田宮さん宛にいらっしゃってます」
「……川島さん?
分かりました、直ぐに行くと伝えて下さい」
女子社員にそう伝えると、俺は足早にエントランスに向かった。
向かっている途中、エレベーターの中で“川島”を思い出そうとしても浮かんではこなく、誰だか分からないまま、エレベーターは1階へと到着した。
そしてドアが開いた瞬間、俺は固まった。
何故、貴方がここに居るんですか?
――…………マスター
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