信じた男

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  「『このボタン一つで、誰か一人を救うことが出来る』……!」  あの男が確かに男がそう言ったのを、俺は覚えていた!  こんな貧困窟の裏路地で感極まって叫んでしまったのが、その証拠だ。  僥倖にも、その際二つも掻っ攫った、この“携帯”でだ。  もし本当に奴等の言う事が正しいのなら、この世界の人々はもうすぐ死滅する。  それを信じるか否かは兎も角、これ以上クソったれた生活と、散々俺を馬鹿にしやがったあのクソ共と永遠にオサラバできるなら、どんな手を使ってでも“その時”まで生き抜いてやる。  だが彼女を失うこと。それだけは真っ平御免だ!  この二つの“携帯”、俺と彼女の分。二人で幸せになれる権利。  その権利を手に入れた俺は、彼女との“楽園”を築き上げてみせる。  その為に“携帯”を一秒でも早く彼女に届けなくては。  ──いや待て、冷静になれ。  人を殺してしまった俺は追われる身だ。“その時”が来るまで彼女と一緒にい続けるのは、彼女にも危険が及ぶかもしれない。  なら一足先に、俺が彼女だけでも──。  ポケットから取り出した“携帯”の見た目は普通の携帯と変わらないようだが、取り敢えず着信ボタンを押して、耳元に寄せる。 『直ちに対象コードを音声入力してください』  冷えた金属のような女の声に急かされた俺は、思わず彼女の名前を告げてしまった。 『────』 「は──?」  ────……  
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