追憶

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朝食を終えて私はまた二階の自室に戻る。 白いパーカーを着てバイオリンケースを手に持つと階段を降りる。 靴へと履き替えると不意に後ろから声をかけられた。 ――偲ちゃんだ。 偲 「千尋?出かけるの?」 千尋 「うん。行ってきます」 偲 「僕との買い物はって… 早く帰ってきなさいよー」 開けた扉が閉まり偲ちゃんの声が途切れた。 こんな天気のいい青空には桜並木通りが一段と綺麗だろう。 桜は私の大好きな花だ。 正直、人前で演奏するのはあんまり好きじゃない。 桜並木通りの公園、公園の隅なら人目につかない私の定位置スポットだ。 私はその場所を目指して歩く。 最近は外に出ると暖かくなってきた様な気がする。 この間までは寒過ぎるくらいの季節だったのに。 千尋 「もう……春なんだ…」 パティスリー工房の硝子越しにも色鮮やかなケーキが並び、満開に綺麗な花屋さんの飾りにもまた春らしさが現れている。 4月から私も星奏学院の一年生になる。 私の中学の友達は他の私立高校に行ってしまった。 淋しくないなんて嘘はつけないけれどこんな私にも不安やこれから先を気にすることはある。 音楽科に入る生徒の大半は優秀な人達ばかりで私は自分の音楽に自信がない。 バイオリンを弾くことは幼い頃から好きだった。 奏の様に音楽に没頭して、たくさんのコンクールで賞を貰うはずでもなく あんなふうになりたい訳じゃない。 では 、私は何の為に弾いているのか。
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