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気が付けばそこは公園の敷地内だった。
親子連れのお花見なんてのも最近はよくみる光景。
私はバイオリンを持ったままいつもの道を行く。
そこは人目につかない場所。
私だけのお気に入りの小さな桜の木。
桜を見上げればなんだかとても落ち着いた気分になれる。
千尋
「――――…よし、今は少しでも練習しなくちゃね。」
綺麗な飴色の私のバイオリンを取り出すと観客はいないものの暖かなステージに思えてきた。
いつかは私のバイオリンの音でも知らない誰かの耳に届くだろうか。
こんな春の日の様に穏やかな気持ちをバイオリンの音色で伝えられるだろうか。
四季~春~
ええっと……水溜まりみたいな曲ね。
明るくて華やか、コロコロと変わる
くるくると回って跳ねて忙しそう……
でも、なんだか…
楽しい妖精の様――…
キラキラ眩しい
踊る、踊る、
音楽のかたち―――…
千尋
「――――あ…、間違えちゃった…」
手を止めて楽譜をめくると、目の前に知らない男の人が居た。
―――…病人……?
私がそう思ったのは、彼の右目には白いガーゼの様な眼帯が巻かれてあるからだ。
しかし病人にしては、こう外出様の服が派手な気がする。
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