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JRの連絡通路を通り抜け、橋本綾と伊藤祥子は京王線の各駅停車に乗り込んだ。
二人は大学が提携している寮に住んでおり、寮の最寄り駅は急行が停まるが、なるべく座りたいがためにいつも各駅停車を利用しているのだ。
「そういえば、バイト始めるんだっけ」
グロスを直しながら、祥子が思い出したように言う。
「うん。渋谷のコンビニ」
「コンビニ?渋谷の?別にいいけど、コンビニ店員って柄じゃないし、わざわざ渋谷までいかなくても近くにいくらでもあるじゃん」
鏡から目を離し、綾の顔をきょとんとした表情で見つめる。
「あんまり知り合いばっかりが来るのも嫌だし、ネイルとか髪色とかも制限ないみたいだったから」
「そっかあ。まあバイトする気になったのはいいことだね。お金を稼ぐことの大変さを思い知りなさい」
鏡に視線を戻し、今度は崩れたアイメイクを指で直し始めた。
祥子は見た目こそ派手だが、中身はしっかりしていて、綾は祥子のそのような所が好きなのだ。
寮も学部も同じということで、丸二年間はほとんど共に過ごしてきた。
「そうだ。バイトするのもいいけど、雄平くんのこともちゃんとしなさいよ」
電車が動き出したと同時に祥子がそう呟き、暗い窓に綾の苦笑いが映っていた。
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