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「あ、おい!待てったら!」
リードを風に靡かせ、愛犬であるヒイロ(オス、四歳、雑種)は彼方へ走り去っていった。
まるでなにかを追いかけるように。いや、逃げてるようにも見えた。ま、どっちでもいいや。
僕は近くの公園のブランコに腰かけて溜め息を吐いた。
たかが犬一匹が逃げただけでこの喪失感。彼女にふられた時は何ともなかったのにな。
その直後に彼女=犬以外の方程式が浮かぶ。
いやいやいや。そんなこと思っちゃダメだろ。
いたたまれない気持ちになって僕は虚空に向かって一人でお辞儀した。
「いやホント美月さん申し訳ない」
暫くの静寂。だけど遠くで子供たちの元気な声が聞こえる。
ふと、僕の左側が眩しい。
見ると、赤く丸い光が僕を見つめてた。
赤色。紅色。朱色。緋色。ではないけれど。
まるでこの町ひとつを飲み込もうとしている怪物の口内みたいだ。
あいつも呑まれてしまったのか。
またヒイロが頭に浮かぶ。
思えばヤツは僕のおとうとみたいなものだった。
遊び相手はいつもヒイロ。
小さい体で何時も僕について回っていた。
両親といた記憶よりヒイロといた記憶の方が多い。
だからこそか。この喪失感は半端ない。
「はぁ…マジかよ…あり得ねぇ」
うなだれていると光は近付いてくる。
それに気付いて左を向いた僕。
いつの間にか僕は呑み込まれていた。
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