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エレベーターの前まで佐伯さんの斜め後ろを歩き、下の矢印のボタンを押す佐伯さんの指が細くて綺麗で見惚れていた。
「雑用係はどうだったんだ?」
「楽しかったです。あっ、違いますっ」
楽しかったなんて言ったらまた怒られてしまう。
「お前さぁ…悔しくないの?」
やっぱり私の返事が気に入らない様子の佐伯さん。
「く、悔しいですっ…自分の仕事がしたいですっ…」
本気で楽しいと思ったなんて口が裂けても言えない。
「お前、きっとお嬢様育ちだろ。コネ入社か?親に怒られた事も無いんだろーな。甘やかされて育ったから忍耐力もないし我慢もできない。俺に怒られるのも気にいらないんだろ?」
「そんなことっ…」
ない…とは言えない。
だって、今日の説教は理不尽だった。怒られている事が気に入らなかった。
でも、お嬢様…育ち……なんかではない。
むしろその逆…みたいな。
黙る私を、佐伯さんがジッと見てる。
そこにエレベーターが到着し、ドアが開いた。
「乗るぞ」
なんか、嫌だな………。
「………乗りません」
佐伯さんとなんか、二人になりたくない。
またエレベーターの中でも説教でしょ?
佐伯さんの中では、お嬢様育ちで能無しの私。
能無し…は受け止めるけど、勝手な想像を押し付けるのは良くないと思う。
私の事、何にも知らないくせに。
「いいから乗れ」
絶対乗らない!!
「一人で行って下さい。私は階段で行きます」
幼稚な抵抗。
それも見透かされて、佐伯さんは何も言わずドアを閉めた。
本当に、呆れられちゃった。
“忍耐力もない、我慢もできない…”か…。
我慢は、たくさんしてきたんだけどな…。
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