第2章 上司の優しさ

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電話の相手と話し終えて、佐伯さんはゆっくり車を発進させた。 さっきのエレベーターでの事、怒ってますよね? チラッと横目で運転中の佐伯さんを見てみた。 うわ……これが女子社員を魅了する人の横顔なのね。 綺麗な鼻筋、スラッとしたアゴのライン…透明感のある肌に薄い唇…そして真っすぐ前を見る大きな瞳・・・。 更にほんのり香る甘い匂いに乙女心が刺激されてしまう。 この人には、欠点というものがあるのだろうか。 あ、あった。 中身が“偉そうな鬼上司”。鬼上司という言葉がここまで似合う人、他にいないと思う! 口を閉じて笑いをこらえた。 誰にだって欠点は付き物だ。 欠点のない人がいたら会ってみたい。 青木君にだって、きっとある。 見た目は“良し”、仕事も“良し”、優しい、頼りになる……性格″良し″、あれ? 青木君には欠点はない!! でも麻衣子は嫌っているから、麻衣子からしたら青木君は欠点だらけなのかもしれない。 人によって欠点の捉えかたは違う。 欠点を逆に長所と捉える人だっているはず。私はそういう人と結ばれたいな…。 「何がおかしい?」 ハッとして、頬に手をあてた。すぐ妄想を始めてしまう所が私の欠点だ。 「あんだけ叱られても笑う勇気があるとはな。いい度胸してんな」 「……すみません」 私、この状況で何で笑ってるんだろ。笑ってはダメだ! きっと佐伯さんは私に今日の挽回のチャンスを与えてくれた。 頑張ってやる気を見せなきゃ!!! 「何の書類ですか?」 「新しい医療機器のパンフ。近場には販売部と手分けして直接渡す事になったから」 そうなんだ。 後部座席にある封筒を一つだけ手に取った。 私が手にした封筒の宛先は、 “市立中央病院”…。 その文字から目をそらして、窓の外を見た。 頭の奥に残っている記憶が蘇ってくる。 狭い病室… 白いベッド… 揺れるカーテン… 蝉の… 泣き声。 中学一年の夏… 私はこの病院で、 一人で父を看取った。
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