第2章 上司の優しさ

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「スーツにクリーニングの札を付けてたり、トンズラこいたり、腹をグーグーいわせて唸ってたり」 唸ってた? オフィスでの事?! 「パソコンで安い居酒屋を探してたのもバレバレだ」 しまった、全部見られてた。周りを確認しながらこっそり検索していたのに。 恐るべし鬼上司。 「…すみません」 「普通なら“仕事を下さい”って俺に直談判に来るべきだろ。お前のやる気のなさには呆れたよ」 「…すみません」 またまた佐伯さんの説教が始まってしまった…。 「仕事、楽しくないのか?自分が選んだ仕事だろ? 「はい…」 この仕事は、私が自分で選んだ仕事…。 でも選んだ理由は、OL…オフィスレディに憧れて。だけど。 学生時代、スーツを着て街を歩くカッコイイ自分を想像してた。 でも実際は会社と家をクタクタで往復する毎日。 憧れてた生活とは程遠い。 でもその中に、小さな小さな幸せがあるんだけどね…。 佐伯さんの説教は続く。 「今日は特にダラけてたけど何かあったのか?」 “今日”…。 「俺が叱り過ぎた?」 首を横に振った。佐伯さんのせいではない。 「だよな。お前の長所は切り替えが早いとこだもんな」  褒められてる?けなされてる? 元はと言えば、今日は鹿野さんのミスを押し付けられた事から始まったんだ。 でもここでそれを言ったとしても、佐伯さんは信じてくれるだろうか。 人に責任を押し付けるなんて、それこそ最低だと思われてしまう。 もう蒸し返したくもない。 「ただの…寝不足です…。本当にすみませんでした…」 「寝不足は皆同じだ」 ……分かってる。 昨日、私だけが残業をしていた訳ではない。 「とにかく、俺に刃向かうくらいの勢いで仕事と向き合え。やる気を見せないと鹿野に見捨てられるぞ」 鹿野さんにね………。 「………そうですね」 嫌な人だけど…、私にいろんな事を教えてくれる人だから離れられない。 明日、鹿野さんに仕事を分けてもらおう……。
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