第2章 上司の優しさ

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事務室長さんとの話が終わって玄関まで歩いていたら、白衣を着た年配の女性に声をかけられた。 「藍子ちゃん?」 私…? 佐伯さんも一緒に立ち止まり、私を見た。 「知り合い?」 分からない。誰だろう… でもここで私に声をかけてくれるとしたら、当時の……? 「松田藍子ちゃんよね…?私の事…覚えてないかしら…?」 じわりじわりと、また過去の記憶が蘇ってくる………。 “藍子ちゃん” “松田藍子ちゃん” “松田さん” 『“松田さん”、藍子ちゃん来ましたよ』 目を閉じて、その言葉の主を思い出した………。 加……藤………さん…? パッと目を開けて、その女性を見てみる。 やっぱり………。 「加藤さん……。ご無沙汰しております…」 ゆっくりゆっくり頭を下げた……。 加藤さんは……、父親を担当してくれていた看護師さん…。 覚えてくれていたんだ…。 「まぁまぁ立派になって…!いくつになったの…?」 「もうすぐ…23です……」 加藤さんが、懐かしそうに私を見つめた。 「もうあれから10年も経つのね………。すっかり綺麗な女性になって!きっとお父さんも天国で喜んでるわね」 加藤さんの言葉に、私は笑顔だけで返した。 父は、こんな私で喜んでいるのだろうか…。 加藤さんが佐伯さんにも頭を下げてくれた。 そして…。 「元気そうで安心したわ…。もう立派な社会人なのね」 そう私に言った。 立派では無いけど社会人にはなれた。 「我が社の即戦力です」 すぐに返事ができない私を佐伯さんがうまくフォローしてくれて、加藤さんが頬を緩めた。 即戦力だなんて絶対に思っていないのは分かり切っているけど、この場をうまくやり過ごすための佐伯さんのセールストークを素直に受け止めた。 
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