第2章 上司の優しさ

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加藤さんと別れ、玄関までの長い廊下を佐伯さんと二人で並んで歩いた。 佐伯さんが黙ってるから、私も黙っている。 窓の外には広い芝生の庭が広がっていて、そこを散歩している患者さんや、走って遊んでいる子供達がいた。 ここへ来てから過去を思い出し、少しだけ窮屈になっている心が、ある光景を見て更に窮屈になってしまった。 私の視線の先にいるのは、中学生くらいの女の子………。 2階の病室に向かって、笑顔で手を振っていた。 その病室にはその子の父親なのだろうか…40歳代の男の人が女の子に向かって大きく手を振り返してる。 きっと、親子…だね。 足を止めて二人の様子を眺めた。 私もあんなふうに父に笑顔を見せてあげてたら 父はもう少し長生きできたのかな…。 あの頃の私は父親が大嫌いで、ろくにお見舞いにも行かなかった。 私にお見舞いに行けと言う人もいなくて、当たり前のように一人で生活をしていた。 父親はとにかく厳しい人で私に物心ついた頃から全てにおいて口うるさくて鬱陶しかった。 父親も自分を嫌いなんだと、そう思っていた。 ……窓の向こうにいるその親子から目を離せない。
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