第2章 上司の優しさ

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私の頭の片隅にいる父親は、今あそこで手を振っているあの父親のようにたやすく笑顔を見せる人ではなかった。 だから私も笑わないし喋らない子供だった。 そんな子に友達ができる訳もなく、学校でもいつも一人だった。 しかも外見だけで生意気だと言われ、先輩達にも目を付けられ意地悪ばかりされた。 父親が亡くなってから親戚の家に預けられる事になり、その学校は転校した。でも結局、卒業するまで転校先の学校にも馴染めなかった。 親戚の家でもいらない子だとばかりに扱われ、我慢の毎日。 誰にも必要とされない自分が惨めで辛くて、あんなに口うるさかった父親が恋しくてたまらなくなり、一人で泣いてばかりいた。 あの厳しさこそが愛情だったんだと、父親を失ってから初めて気付いた。 何でも一人で出来たのは、父親が私に常に伝え続けていたから。 父親は私に自分の全てを託していた。 父親を思い出し、泣きながら寝て泣きながら起きる毎日。 どうしてもっと早く当たり前の幸せに気付かなかったのか。こんなに後悔すると分かっていれば、肩もみの一つくらいしてあげたのに。 自分から歩み寄ってもっとたくさん言葉を交わしたのに。 今さら思い返しても、仕方ない事なんだけど。 今でもたまに、無性に父親に会いたくなる。
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