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オレンジ色をした太陽が、病棟の窓に反射している…。
少し冷たくなった風…。今が秋でよかった…。
もし蝉の泣き声が聞こえてたら、
私はきっと、もっと父の事を思い出してた…。
心の中に封印している、父との最後の会話も。
「松田…、時間がない。次行くぞ」
気付いたら佐伯さんが目の前にいて、私を心配そうな表情で見ていた。
「あっ、すみませんっ、ボーッとしちゃいましたっ」
「…ったく。今日は一日中もぬけの殻だな」
「…すみません」
だからここには来たくなかったんだ。
何年経っても父親への思いは色褪せない。
忘れてしまいたい過去なのに。
たぶん、
どれだけ時間が経っても、“忘れたい”と思ってるうちは忘れられないんだろうな……。
「松田ーっ、じゃあなーっ!」
じゃあな?!
佐伯さんが見えなくなる。
置いて行かれてしまった。
あの親子にこの感情を捧げ、父親を胸に封印する。
今は佐伯さんの背中だけを見て前に進むのみ!
「待ってくださいっ……!!」
即戦力を捨てないで!
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