第3章 上司に片思い

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「いいんです…。日頃の行いが悪かったんです…。もしあの時私が“違う”と言ったとしてもきっと誰にも信じてもらえなかったと思うから…」 ミスばかりしていた私が否定してもきっと無駄だった。 私をかばってくれる人もいなかった。 現に、私のミスだということであの場は落ち着いた。 認めざるを得なかった。 「バカだなぁっ…何も悪くないお前が謝る必要なんてなかった。鹿野も部下に責任を押し付けるなんてどういうつもりだ」 本気で怒っている。 「もう終わった事なので…」 もういいのに…。 「お前はそんな弱腰でどうするんだ…また違う罪を被せられるぞ!また泣き寝入りするのか?何でちゃんと主張しないんだ」 次は、する。絶対に、負けない。 「…それにあの日…俺に話す機会もあったよな?」   あの日、佐伯さんと一緒に外回りに出た。夜ご飯を一緒に食べた。話す機会はあったけど、あえて話さなかった。 幸いな事にあれから私もミスはしてないし、鹿野さんもパーフェクトに仕事をこなしている。 あの事があったから、お互い慎重になっている。 もう鹿野さんに悩まされてはいない。 「本当にもう…大丈夫ですから」 早くこの話を終わらせないと、どんどんヒートアップしてしまいそう。 今更、大ごとにはしたくない。 「せめて俺にだけは本当の事を言ってほしかった。俺ってそんなに頼りないか?」 「そんな事ないですっ!」 即答してしまった。 「もし…」 もし……?? 「二度もこんな事あってはいけないけど、もしまた何かあったらすぐに俺に言うんだぞ!」 佐伯さん………。 「……ありがとうございます」 もう、その言葉だけで充分。 明日からまた頑張れる。 「俺の間違いならお前に謝らないと…と思って呼び出した。こんな時間に悪かったな」 シュンとした佐伯さん、前にもあったね。 「平気です!私は大丈夫ですっ」 ニコニコしながら佐伯さんを見上げたら、頭をポカンと叩かれた。 またゆっくり、佐伯さんの隣を歩く。 「居酒屋、お詫びに奢ってやるから」 「やったー!飲み放題ですか?」 「こんな時間からどれだけ飲む気だよ」 「底無しに飲めます!」 「俺より飲んだら割り勘にする」 「えぇっ!佐伯さん、お酒強いですか?弱いですか?私の相手になりますかっ?」 「どっちが強いかお手並み拝見だな」 「ですねっ」 楽しそう! ちょっとだけ佐伯さんを近くに感じる事ができた冬の夜。 やっぱり好きみたい、佐伯さんの事。 佐伯さんと他愛のない会話が出来る事に幸せを感じる。 普段オフィスでは近寄り難い人だからかな。 叶わない恋でいい。 きっと私はこれからもっと佐伯さんに惹かれていく。 佐伯さんのうちに秘めた、 誰かへの想いに気付く事なく。
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