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数日前に漸く春一番が吹き、暖かくなり始めた頃。
テーマパークの帰り道を、まだ寒い夜空の下で暗く街頭が僅かに照らしている町を二人で歩く。
「あのね、はる君」
隣を歩く女が口を開く
「ん、何さ」
「今日、ありがと。楽しかった」
「そっか、よかった。俺も楽しめたよ」
「ホントに?よかった。…はる君、最近何か悩んでるみたいだったから心配してたんだよ」
「え、そんなことないと思うけど」
「そんなことあったよ。今日も難しい顔して私の顔じっと見てたんだから。困ったことがあるならいつでも相談のるから」
ちょっと頬を膨らませながら拗ねたように言う。
まだ付き合っているわけではないけれど、せっかくのデートの最中に考え事をしているのはよろしくないだろう。やんわりと指摘されてしまった。
ましてや、彼女―蛇嶋紗姫(へびしまさき)にとっては最後の思い出になるのだから、楽しませてやらないと。もちろん、本人は知る由もないが。
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