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「お疲れさん……、今日も派手に暴れたな」
20人程度の中規模違法能力者集団を相手に、ただの暴力で全員を蹂躙した彼女に声をかける。
俺は途中で飽きてきたので、その辺に座り、最後にいつ使ったのか定かではない剣を磨いていた。
そんな俺を見ても、チヅルは不満そうにはしなかった。腹立たしいほどに洗練された美脚を折り曲げ、座り込む。
「……それが私の役目だから」
彼女はそう言って目を瞑る。これは痛みを堪えている時の仕草だ。自分自在【マイライフ】がもたらす副作用。
俺は剣を鞘に納めると、チヅルの傍に寄る。よく見ると、華奢な背中が震えていた。
「レッドスキルに狙われているのは俺だけだ。お前は逃げても構わないって、何回言えばわかるんだ」
レッドスキル――能力を使って罪を犯す連中の総称だ。以前にそいつらと一悶着があってから、こうしてよく狙われるようになってしまった。
「……いいの。私には帰る場所がないから」
私には、クーフェンしかいないから。
彼女はいつものようにそう言って、未だに痛むだろうに気丈に立ち上がった。
「此処も、もう居られなくなる。早いうちに出発しないと」
「そう……、だな……」
彼女の強い眼差しに射抜かれて、俺は言葉を飲み込んだ。無理はさせられないと思う半面、チヅルの言うことは本当のことだった。
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