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二階に着くと、沙紀は真っ直ぐにゲートへと向かって歩いた。
僕は沙紀のボストンバッグを右手に提げて、彼女の隣を歩く。
そして、いよいよゲートの前にたどり着くと、沙紀は立ち止まった。
「ねえ、私、本当にこのまま行ってもいいのかな?」
沙紀はひどく悲しそうな顔をして言った。
「君は僕のために、東京に行く決心をしてくれたのだろう? 僕はそのことをとても嬉しく思っているし、君のことを応援したいと思っているよ。僕自身のためにもね」
「うん、わかってる」
「だったら、そんなに悲しそうな顔をしていちゃだめだよ。ほら、笑って。僕は君の笑顔が好きなんだ」
「うん」
僕の言葉に、沙紀は満面の笑顔で答えてくれた。
もちろん、沙紀が僕の為に精一杯作ってくれた笑顔なのだということはわかっている。
そこまで僕のことを思ってくれる沙紀が、僕は愛しくて仕方がなかった。
沙紀は僕の手からボストンバッグを受け取ると、「じゃあ、言ってくるね」と、もう一度精一杯の笑顔を浮かべて言った。
そして沙紀は一人でゆっくりとゲートに向かって歩きだした。
僕は黙って沙紀の後ろ姿を眺めた。
本当は、「行くな」と心の底から叫びたかった。
すぐにでも駆け寄って、彼女の腕をとって、引き戻したかった。
だけど、それはできないのだ。
沙紀が精一杯の笑顔を僕にくれたように、僕も精一杯の強がりをもって彼女を送り出してあげなければならないのだ。
そうして沙紀の姿はゲートの向こう側へと消えていった。
残された僕は、今にも溢れ出しそうな涙を必死に堪えながら、屋上の送迎デッキへと向かった。
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