7人が本棚に入れています
本棚に追加
空
千里中央駅を発車したモノレールは、大阪中央環状線と中国自動車道のちょうど上を西に向かって走り、やがて大阪大学の前を過ぎると、大きく左に弧を描きながらゆっくりとしたスピードで蛍池駅に到着した。
蛍池駅は、阪急電鉄の主要路線である宝塚線との乗り継ぎ駅であるため、他の駅に比べると比較的乗降客が多い。
僕と沙紀の乗っている車両の客も半分くらいはモノレールを降り、代わりに同じくらいの数の新しい乗客がモノレールに乗り込んできた。
僕と沙紀は黙ったままそんな光景を見ていた。
客の乗降が終わると、扉が音を立ててゆっくりと閉まり、同じようにゆっくりとしたスピードでモノレールは進み始めた。
蛍池駅を出たモノレールは、大きく右に弧を描き、ほとんどUターンするような形で終点の大阪空港駅に滑り込んだ。
僕は、モノレールが完全に停止するのを待ってから、沙紀のボストンバッグを持って立ち上がった。
だけど、隣に座っている沙紀はなかなか立とうとはしなかった。
「どうしたんだい?」
僕は沙紀に問いかけたけれど、沙紀は何も答えてはくれず、相変わらず立ち上がろうともしない。
そうしている間にも、モノレールは折り返しの運転に向けて、新しい乗客を乗せ始めていた。
このままここに座っていれば、僕たちは逆戻りしてしまうだけだ。
「早く行こう。飛行機に遅れてしまうよ」
僕のその言葉で、ようやく沙紀は立ち上がったが、その足取りは重く、未だ何かを躊躇しているように見えた。
もちろん、沙紀が何を躊躇っているのかは、僕にもわかっている。
それでも彼女は、彼女自身が決めた道の為に行かなければならないのだ。
僕だって本当は彼女を見送るのが辛い。
できることであれば、彼女について行きたいというのが本音だ。
だけど、それはできないことなのだ。
最初のコメントを投稿しよう!