第一章∮出逢う

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でも、病院は6階建てだから、落ちたって死なないかもしれない。 苦しみたくはない。 でも、うまくいったら、即死できるかもしれない。 賭けにでるか…。 「死にたいの?」 後ろから声が聞こえた。 振り向くと、小さくて真っ白で、天使みたいな少女が立っていた。 見たことない顔だが、患者だろう。でも、パジャマではなく、白いワンピースを着ていた。 幼い顔立ちが、可愛らしくて、おかっぱ頭がよく似合っている。 でも、声はどこかおとなびた、少年のような声音。 髪色は、雅美のような艶のある黒髪ではなかったけど、綺麗な淡い亜麻色だった。 「死なないよ」 「じゃあ何していたの?」 大きな瞳が、俺を見つめる。 「…景色を見てたんだ」 少女は、プッとふき出した。 なにかおかしかったのか、少女はクスクス笑っている。 「なんで笑ってんの」 笑われるのは嫌いだった。 「だって…こんな田んぼばかりの景色、ちっとも綺麗でないのに」 少女はまだ、笑っている。 でも、少女の笑いかたは、全然下品でなくて、自然だった。 俺もつられて笑った。 「キミ、名前は?」 俺より、見るからに年下なのに、俺を『キミ』と呼んだ。 でも、あまりにも自然な言い方で、嫌な気はしなかった。 「国定衆介だよ」 「しゅうすけ?」 「そう。衆介」 少女は明るい。 「いくつ?」 「17歳。高校三年生だよ」 少女は少し驚いて、 「あたしと三つも違うのね」 と言った。 「あたしは紗雪。仁家紗雪だよ」 サユキ……。 俺は、この少女の名前を、一生忘れないと思った。 「ヨロシクねっ」 紗雪は、綺麗に笑う。 俺の胸の奥で、なにかが変わる音がした。
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