第一章∮出逢う

10/10
4人が本棚に入れています
本棚に追加
/50ページ
でも、病院は6階建てだから、落ちたって死なないかもしれない。 苦しみたくはない。 でも、うまくいったら、即死できるかもしれない。 賭けにでるか…。 「死にたいの?」 後ろから声が聞こえた。 振り向くと、小さくて真っ白で、天使みたいな少女が立っていた。 見たことない顔だが、患者だろう。でも、パジャマではなく、白いワンピースを着ていた。 幼い顔立ちが、可愛らしくて、おかっぱ頭がよく似合っている。 でも、声はどこかおとなびた、少年のような声音。 髪色は、雅美のような艶のある黒髪ではなかったけど、綺麗な淡い亜麻色だった。 「死なないよ」 「じゃあ何していたの?」 大きな瞳が、俺を見つめる。 「…景色を見てたんだ」 少女は、プッとふき出した。 なにかおかしかったのか、少女はクスクス笑っている。 「なんで笑ってんの」 笑われるのは嫌いだった。 「だって…こんな田んぼばかりの景色、ちっとも綺麗でないのに」 少女はまだ、笑っている。 でも、少女の笑いかたは、全然下品でなくて、自然だった。 俺もつられて笑った。 「キミ、名前は?」 俺より、見るからに年下なのに、俺を『キミ』と呼んだ。 でも、あまりにも自然な言い方で、嫌な気はしなかった。 「国定衆介だよ」 「しゅうすけ?」 「そう。衆介」 少女は明るい。 「いくつ?」 「17歳。高校三年生だよ」 少女は少し驚いて、 「あたしと三つも違うのね」 と言った。 「あたしは紗雪。仁家紗雪だよ」 サユキ……。 俺は、この少女の名前を、一生忘れないと思った。 「ヨロシクねっ」 紗雪は、綺麗に笑う。 俺の胸の奥で、なにかが変わる音がした。
/50ページ

最初のコメントを投稿しよう!