第四章∮別れて

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一人のおとなしそうな女が立っていた。 胸くらいまである、ゆるくカールした髪を、微妙に指先でいじりながら、ジッと上目使いで見てくる。 「何」 「あのっ…あたしも手伝います…」 女っぽい声。 女はこれが普通なのか。 「そりゃどーも」 そっけなく返事して、そそくさとキッチンのほうへ向かう。 ふんわりと、カレーライスのスパイスの香りが漂う。 「ターメリック?」 おとなしい女が、言う。 ターメリック…って、スパイスの名前だよな。 「あぁ、まぁ」 俺が冷たく言うと、大人しそうな女は、首を傾げて、顔を歪めた。 「ちょっと古い気がします。賞味期限が過ぎてませんか…」 「は?」 賞味期限…そういえば、確認してなかったけど。 でもニオイだけで古いだの新しいだのが、わかるわけない。 …と思いつつ、レトルトの箱の側面を見る。 2010、12、30 賞味期限…切れてるわ。 さすが女の勘。 「…去年だった」 俺が呟くと、大人しそうな女は、誇らしげな顔をした。 「料理学校に通ってるから、ちょっと詳しいの」 別に興味ないから。 プライベートまで知りたくないんで、黙れ。 自意識過剰女が。 「へー」 「あたし、植村愛美。愛っていう字に美しいって書くの」 あー、知りたくないって。
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