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「いーよ、別に」
俺は弁当らが入っている袋を、父さんに渡した。
「母さんは?」
「検温だろう。それより、衆介」
父さんが内ポケットから、茶色い小封筒をだした。
「いつものお礼だ。これで好きなもの買いなさい」
中身を見ると、一万円札が二枚入っていた。
「いらねぇよ、金なんて」
「子供が遠慮なんてするな」
父さんは、半ば強引に茶色い封筒を俺に握らせた。
「…どーも」
父さんがかすかに微笑む。
…自分の思い通りになったから、嬉しいのか?
金なんかいらねぇ。
俺が本当に欲しい物は、絶対手に入らない。
「じゃ、帰るわ」
「おぉ、気をつけてな」
そっけない、ありきたりな会話の後、理事室を出た俺は、何も考えず、病院の中をフラフラと歩いた。
気がつくと、屋上に向かっていた。
反射的に、ドアを開ける。
ギギギ―……
鈍いさびれた音がした。
思いきって、いっぱいまでドアを開ける。
「さ、さみぃ…~っ」
冷たい風が、俺を包む。
それでもこりず、フェンスへ近付いていく。
そういえば、屋上へは来たことなかった。
「…低いな」
病院のくせに、フェイスが、簡単に越えられるんじゃないかってほど、低い。
飛び降りてもいいよ、と言っているようだ。
「…飛び降りてみようか」
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