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病院で白いベットにふてぶてしく横たわる克二を見た僕は、不安になったとか心が痛んだとか、そういった感情を差し置いて、まず違和感を覚えた。
剛健不遜な彼に、消毒液のような匂いの漂う部屋と足を戒めのように固定するギプスがあまりにも似つかわしく無かったのである。
不機嫌に顔を破綻させマンガを読んでいた彼は、病室に入ってきた僕を確認するとマンガをほうり出し、大手を振って声を張り上げた。
「おおぉい!忠司ぃ!よく来たなあ!」
病室に居る他の患者さんや、そのお見舞いに来た人たちの視線が一気に僕と克二に集まった。克二ぃ!お前も元気そうだなあ!なんて彼の調子に合わせる度胸も甲斐性も持ち合わせていない僕はただ俯いて歩調を速めた。頬がほとばしるように熱くなった。
痛いほどの視線をくぐり抜けて、ベットの傍らにあるパイプ椅子に腰掛けた僕は、満面の笑みを浮かべる克二に少し遠慮がちに言った。
「もう、そういうのはやめろって何度も言ってるだろ」
克二は笑顔のまま、フンと鼻を鳴らした。
「相変わらずお堅いねえ。いや、ただの根暗野郎か」
そう言うと克二は声に出して笑った。彼の憎まれ口はもうとっくに慣れっこだったので特に相手にせず、そういえばさ、とお茶を濁す。
「頼まれていたもの、持ってきたよ」
僕は手に掛けていた大きめの紙袋を克二に渡した。大喜びで受け取った彼はうわあいと幼子のように声を高くすると、病院に向かう前、僕が丁寧にテープで留めた紙袋の口を乱暴に引きちぎった。
僕は少しムッとしたけれど、克二があんまりに喜ぶもんだから、ついついつられて嬉しくなった。
「これこれ、これだよ!入院してからどれだけご無沙汰だったか。この光沢、色合い、フォルム!それに鼻をつく独特な男の臭い。たまんねぇ…」
「大袈裟だな。それに入院してからまだ5日しか経ってないよ」
「また細かいことを。いちいちうるせえなあ。ところで、持ってくるのに苦労しただろ」
「うん、大変だった。尾林先生の眼を盗むのにすごくドキドキしたよ」
予想していたけど、返事はなかった。彼はすでに夢中になって、手にはめたり後ろの白い壁を軽く打ち付けたりして5日ぶりの感触を思う様に堪能していた。
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