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当時、大学生だった深雪には未知の世界。不気味すぎて足を踏み入れたくもない場所だ。
抵抗を見せる深雪と、そのタレントで押し問答していた。
「深雪」
家でのんびりしていたのが伺える朗が、スェット姿で息も切れ切れに慌てた様子で深雪のところまで走ってきてくれた。
そんなに背も高くないタレントを、朗はただ黙って見下ろした。
「――もう遅いんで連れて帰ります」
格好いい台詞は何も言わなかった。ただ、静かにそう言うと深雪に帰るぞと目配せした。
「今の野郎、どっかで見たことあるんだよなぁ」
Peugeotの真っ黒の車に乗り込みながら、朗が首を傾げた。
「そう? ありがとう」
テレビとのギャップが有り過ぎて夢を壊したらいけないからと、深雪は真実は伝えなかった。
ただ、黙って帰り道、朗の説教を聞いた。
全て身にしみることばかり、ズケズケと言ってくる朗に苦笑しか浮かばない。
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