―其ノ壱―

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 二人の頭の中から聞こえてきたのは、たった一言。 「金のなる木」  七郎はその後、二度と両親に会わなかった。  その日から、七郎の精神は崩れ始めた。政府は選りすぐりの精神科医に診察させたが、回復の兆しは見えてこない。だがある日、七郎は一つの要求を示した。 「兄弟と友達に会いたい」  両親に裏切られた彼が信頼できる存在。最後の希望。政府はすぐに兄弟と友達に連絡を取り付けた。  全員が、面会を拒否した。  この時、いや、以前から世村七郎を危険視する声は高まっていた。ありえないことを現実にする力。確かにその力で世界は限りなく平和に近づいた。七郎が努力を続ければ、いつか実現できるかもしれない。だが、気づく者は気づいていた。――七郎が世界を壊すことも可能だということに。  政府が七郎を帰さなかった理由はそこにある。日常生活におけるストレスや、学校での些細な喧嘩。そんなことでも七郎が世界を滅ぼす可能性がゼロではなかったから。故に政府は、今まで七郎の要求にはできる限り全て叶えてきた。兄弟と友達に会いたいという要求も、無理矢理連れてくるという形で叶えた。しかし、七郎は力を使い全員が拒否したことを知っていた。  面会と同時に、七郎は全員をこの世から消した。人を消すという“ありえないこと”を現実にした。  恐れていた緊急事態。政府は直ちに七郎の銃殺命令を出した。屈強な男達が僅か八歳の少年へ一斉に引き金を引いた。  七郎は生きていた。いくら撃たれようとも死なないという“ありえないこと”を現実にしていた。  政府は絶望した。取り返しのつかないことをした。世界は破滅を迎える他ない。そんな自分勝手な大人達よりも、七郎の方がしっかりしていた。  ここまでされても、七郎はまだ世界を愛していた。でも、もう生きていくには辛すぎた。  そして七郎は、最後の力を使う。 「皆が僕のような力を持っていたら、僕だけこんな思いをせずにすんだのかな?」  世界中に言技を使える人間が溢れている世界。そんな世界は“ありえない”。  その後七郎は自らの意思で“死なない”という言技を解き、結果的に自害した。  その翌年以降からであった。生まれてくる新しい命達に、次々と“言技”が現れ始めたのは。
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