51797人が本棚に入れています
本棚に追加
争っている少年ギャングは二組。両チーム共に名前入りの落書きを多数残していたので、チーム名は嫌でも大介の頭に入ってきた。
まず一組は“シックルズ”。刃物でバツの字に切り裂いたようなマークに、灰色でSICKLESと書かれている。もう一組は“鬼神(キシン)”。大口を開けた鬼に赤い字でチーム名が刻まれている。
分析したところで、大介にはどうでもいいことだった。関係のないことであるのが勿論のこと、例の黄色いテープで大介は事前に危機を察知することができる。逃げるのは得意だった。ずっとそうして生きてきたから。自分自身を守るために。
いつものスーパーに到着すると、壁面に鬼神のマークが描かれていた。心の中で自分はシックルズを応援しようなどと考えながら、大介は店の入り口へと向かった。
――この時だった。彼女に出会ったのは。
スーパーの隣に店を構えるアイスクリーム屋から、二段アイスを手に持ち上機嫌な女の子が出てきた。セーラー服の左胸元に見える校章は、紛れもなく大介が通う高校のもの。それだけならば、特に珍しいことではない。放課後に同校の学生と出会った。ただそれだけのこと。だがその少女は、嫌でも目を引き付ける特徴をいくつか有していた。
まず、髪色が赤い。熟れた林檎のように、見事なまでに赤いショートヘアー。当然地毛ではなく染めていると思われる。そのような派手な髪をしているのに比べ、メイクは随分と落ち着いていた。
そして次に目を引くのが、腰回りにぐるりと一周ぶら下げられている、無数の携帯電話。大介の目測では、およそ十台前後。折りたたみ式にスライド式に、ストレート型にスマートフォン。様々な色、種類、メーカーの携帯電話が、その細い腰回りで数秒置きに着信音を鳴らしていた。
最後に足元。これでもかというくらいにバレバレの厚底ブーツを履いている。十センチは底上げしているようだが、次第に近づいてきた頭の位置は大介より随分と下であった。
変な女の子に出会った。大介にとって、それはただそれだけのこと。勿論話しかける気など毛頭ないし、歩く個性の塊とたまたま偶然街で出会った。このまますれ違って終わり。
そうなるはずであった。
最初のコメントを投稿しよう!