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此れ以上はナイター用のライトをせんと見えへんな。
頭の中で描いたラインに、体が覚えた。取り敢えず今日はもう良いだろうと、完全に夜の帳が降りる前にコートを後にした。
もう流石に誰も居ないであろうと、部室のドアを開けると予想外に明かりがついていた。
誰かが消し忘れたのだろうか。今日の当番は誰だったかと思い出す前に、此れ以上不遜な態度と声の奴はいないだろうと、証明するような台詞を投げ付けられた。
「やっと終わったか。アーン?」
顔を見ずとも分かる。
この学園で分からない奴は居ないだろう。
「跡部こそ、まだおったんか。」
「テメェが帰って来なけりゃ、鍵、閉められねぇだろうが。」
溜息混じりに見下した態度。
同じ歳だと言うのに、此処まで偉そうに出来るのは何故なんだろう。
常日頃、疑問に思って仕方無い。
「まだ着替えてなかったんか?」
クーラーは効いている筈なのに、額に流れる汗をうっとおしそうに跡部はリストバンドで拭いていた。
「明日、榊コーチ来ねぇんだよ。急ぎのファイルがあって・・・って、テメェには関係ねぇな。」
説明するのが面倒になったのか、途中で切り捨てるように言い放つ。
「職員室まで走ってったん?そないに汗かいて。」
「ばっ・・これはっ!・・・」
珍しく言い淀む跡部に違和感を感じつつ、着替えようとロッカーの前にいた跡部の横に並んだ。
跡部も着替えるのだろう、勢いよく空け放たれたロッカーの扉は仰々しく大きな音を立てた。
その音に苛付いたのか、ひとつ舌打ちをして背を向ける。
一々すぐに感情を表に出す奴やんなぁ。
感情を他人に読み取られない事を美学とする自分には、到底理解出来ない行動だ。
感情を露にする岳人も似た様なものだが、ちょっと違う。
彼奴は負の感情が鋭いのだ。
鋭く回りにいる奴等にも突き刺さる。
相手を威圧するには適切だが、チーム内では正直しんどいと思う奴等が殆どではないだろうか。
氷帝は実力主義だ。実力があれば上に立てる。彼奴には此れ以上ない環境だろう。
だが孤立もする。
独裁者となった彼奴は、彼奴の横に並ぶような者はいない。
自らそうしたのか、何時の間にかそうなってしまったのか。
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